開高健『河は眠らない』
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最終更新日:2017/02/08
名言
ここの森を歩いているとよくわかるんですけれども、斧が入ったことがない、人が入ったことがない森というのがそこらじゅうにいっぱいある。それで、土が露出していないで、シダやらなんやらに覆われていますが、草とも苔ともつかないもので、森の床全部が覆われている。それから風倒木が倒れて、倒れっぱなしになっている。これが実は無駄なように見えて実に貴重な資源なんであって風倒木がたおれっぱなしになっていると、そこに苔が生える。微生物が繁殖する。バクテリアが繁殖する。土を豊かにする。小虫がやってくる。その小虫を捕まえるためにネズミやなんかがやってくる。そのネズミを食べるためにまたワシやなんかの鳥もやってくる。森におしめりを与える。乾かない。そのことが河を豊かにする。ともうすべてがつながりあっている。
だから、あの風倒木のことを、森を看護しているんだ。看護婦の役割をしているんだというのでナースログというんですけれども自然に無駄なものは何もないという1つの例なんです。だから、そうすると、人間にとってナースログとはなんでしょうか。
無駄なように見えるけれども、実は大変に貴重なものというものも人間にはたくさんあるんじゃないか。それぞれの人にとってのナースログとは何か? 無駄をおそれてはいけないし、無駄を軽蔑してはいけない。なにが無駄でなにが無駄でないかはわからない。ここがひとつの目の付け所ですね、これは大事なことですよ。無駄なことしていると思うことはないんであって、いつかどこかで、またなにか別の形でよみがえっているのかもしれない。だから、人の心にとってのナースログとは何か?
開高健DVD『河は眠らない』より
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