【認知行動療法の権威】大野裕

公開日: : 最終更新日:2017/02/08 人物

大野裕氏(おおの ゆたか)は1950年愛媛県生まれ。1978年慶應義塾大学医学部卒。コーネル大学医学部、ペンシルバニア大学医学部への留学を経て1994年慶應義塾大学保健管理センター教授。

 

2011年6月から国立精神・神経医療研究センター認知行動療法センター長に就任。うつ病などに対する認知療法の権威であり、皇太子妃雅子さまの主治医として知られています。日本ポジティブサイコロジー医学会理事長、日本認知療法学会理事長、日本ストレス学会理事長など要職多数。   oono03

 

大野裕氏が権威とされる認知療法・認知行動療法は、特に1980 年代後半から注目されるようになってきた治療法で、人間の気分や行動が認知のあり方(ものの考え方や受け取り方)の影響を受けることから認知の偏りを修正し、問題解決を手助けすることによって精神疾患を治療することを目的とした構造化された精神療法のことです。

心の健康を取り戻すためのキーワードとして、大野裕氏は、

認知療法、行動療法、対人関係療法の三つの治療技法の基本的な考え方である認知(Cognition)、コントロール感覚(Control)、コミュニケーション(Communication)の“三つのC”を大切にしています。

認知というのは、簡単に言えばものの受け取り方や考え方のことです。ものごとを悲観的に考えればそれだけつらい気持ちが強くなります。逆に、広い視野で柔軟に考えることができれば気持ちは楽になってきます。

気持ちを楽にするためには、コントロール感覚を取り戻すことも大切です。自分がどのような人間で、どのような生き方をしようとしているのかを自分なりに理解して感情や行動をコントロールすることができれば、心に余裕がでてきます。

このように考え方を変えたり自分をコントロールしようとしているときには、ほかの人とのコミュニケーションが役に立ちます。誰かと一緒にいて、話を聞いてもらうだけで気持ちが落ち着くこともありますし、話の中で思いがけない発想ができて視野が広がるということも少なくないからです。

と著書『うつを治す』(PHP新書)で述べています。

認知療法は、まずうつ病の治療として始まりました。

国立精神・神経医療研究センター認知行動療法センターHPによれば、

認知療法・認知行動療法というのは、認知に働きかけて気持ちを楽にする精神療法(心理療法)の一種で


認知行動療法では、自動思考と呼ばれる、気持ちが大きく動揺したりつらくなったりしたときに患者の頭に浮かんでいた考えに目を向けて、それがどの程度現実と食い違っているかを検証し、思考のバランスをとっていきます。

 

私たちは、自分が置かれている状況を絶えず主観的に判断し続けています、通常は半ば自動的にそして適応的に行われています。しかし、強いストレスを受けるなど特別な状況下ではその判断に偏りが生じ、非適応的な反応を示すようになってきます。

 

こうした状態を大野裕氏は

普通はぱっと考え、ぱっと判断する。
非常に効率的にいっているんですけれども、何かのきっかけでうまくいかなくなると、自分の思い込みの世界に入ってしまいます。

と表現しています。

 

こうした判断の偏り、または自分の思い込みの世界に入った結果、抑うつ感や不安感が強まり、非適応的な行動が引き起こされ、さらに認知の歪みが強くなるという悪循環が生じることになります。

では、こうした認知の歪みをどう修正するのかというと。

こうした認知の歪みを修正するためには、ポイントがあると大野裕氏は言います。

ポイントは現実に目を向けて、具体的な問題を考えていく態度です。人生を抽象的に悩んでどのような生き方が正しいかということを考えても結論が出ないことはよくあります。そのようなときには、現実に目を向けるのが一番です。

そのためには、次にあげるような、「そう考える根拠はどこにあるのか」「だからどうなるというんだ」「別の考え方はないものだろうか」という三つの質問を心の中で順番に問いかけてみることで、自分のものの考え方を変えていくことが、大切になってきます。

このときに、特に、自分の頭の中をよぎる考えやイメージに注目するようにします。気持ちが動揺しているとき、私たちはそれと同時になにかを考えたり想像したりしています。これを「自動思考」と言います。そのとき瞬間的、自動的に頭に浮かんでいる考えやイメージという意味です。

この「自動思考」には、認知のズレを理解し、修正するヒントが隠されていると言われています。気持ちが落ち込んでいるときや、うつ病の人の場合、自動思考の流れが・・・・非適応的な思考になってしまっていることが多いのです。自動思考は、最初はあまり意識できないかもしれませんが、少し練習すればわかるようになってきます。

大野裕著『うつを治す』(PHP新書)より

認知療法・認知行動療法では、「自動思考」と呼ばれる、様々な状況でその時々に自動的に沸き起こってくる思考やイメージに焦点を当てて治療を進めていきます。

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治療は対面式の面接が中心で、一回の面接時間は30分以上で、面接は原則として 16回から20 回行います。認知療法・認知行動療法ではまた、ホームワーク(宿題)といって、面接で話し合ったことを実生活で検証しつつ認知の修正を図ることが必須の課題となります。 つまり、認知療法・認知行動療法は観念的な議論ではなく、あくまでも現実に目を向けた検証を基本とする点に特徴があり、

「自分が何をやりたいのか」「そのやりたいことをするためにはどうすればいいのか」というふうに考えられることが大事で、考えをそういうふうに切りかえるためには行動をするということも大事

というような日常生活が治療の場となります。

大野裕認知行動療法センター長は認知行動療法の今後の方向性について、認定された医師の指導のもとで認定されたコメディカル(心理士、看護師など)が治療に参加するチーム医療体制の整備の必要性を訴えています。 また、

認知療法は、患者の考え方のバランスがよくなるようにサポートする方法。うつ病になると、どうしても悲観的になってしまう。この療法はこうした悲観・否定的な考え方を和らげ、自分を責めないような前向きな思考に持って行くものだ。

と大野裕氏は強調しています。 厚生労働省の資料によれば、精神疾患により医療機関にかかっている患者数は、平成8年の患者数218万人から平成23年は320万人へと大幅に増加しており、その内訳は、多いものから、うつ病、統合失調症、不安障害、認知症などとなっており、 近年においては、うつ病や認知症などの著しい増加がみられます。 うつ病は15人に1人がかかるといわれているデータもあります。

うつ思考 ・・・マイナス思考の3パターン (自分・周囲・将来へのマイナス思考) うつ思考 ・・・マイナス思考の3パターン 1.自分のことをマイナスに考えすぎる ・自分の能力を過度にマイナスに考える 「集中できない、物覚えも悪い。自分はダメな人間だ。」 ・過度に自分を責める 2.周りの人やものごとをマイナスに考えすぎる うつ病の認知療法・認知行動療法(患者さんのための資料) 厚生労働科学研究費補助金こころの健康科学研究事業「精神療法の実施方法と有効性に関する研究」より引用

しかし、問題は、うつ病の人で実際に医療機関に受診をしている人が4人に1人という点で、4人に3人は辛いけど我慢しているのが現状です。 oono02 こうした状況から与野党の国会議員による「こころの健康推進議員連盟」が設立され、精神保健医療福祉の総合化と速やかな強化充実を図るため「こころの健康基本法(仮称)」の早期制定が目指されています。

こころの健康基本法案(仮称)骨子 この「こころの健康基本法案(仮称)骨子」に対する意見として日本医師会は、 わが国では 1998 年以降、年間自殺者数が 3 万人を超える状況が続いている。 さらに自殺未遂者は少なく見積もっても既遂者の 10倍は存在すると推定され、医学的には自殺者の大多数が最後の行動に及ぶ前に何らかの精神疾患に該当する状態にあることが指摘されている。 ・ ・ ・ 精神保健・精神医療の充実は社会的な課題であり、国としてその対応を進めることが必要であることは言を俟たない。

としています。 大野裕氏もこの動きには積極的関与し、署名が多く集まったこと、多くの自治体が法律制定を求める意見書を採択したことをツイッターで報告しています。

こころの健康基本法案(仮称)骨子(未定稿)における一番最初の目的にはこうあります。

この法律は、今日著しく増大している社会的な緊張、経済的な困難の下で、多くの国民が、社会的、精神的な様々な生きづらさに直面していることに鑑み、世界保健機関が、健康とは病気でない又は弱っていないということではなく、肉体的にも精神的にも社会的にも全てが満たされた状態にあることと定義していることを踏まえ、こころの健康を保持できる環境の整備、改善等に係る施策に関し、基本理念を定め、国、地方公共団体、医療保険者、関係者及び国民の責務を明らかにし、並びにこころの健康環境の整備等に係る施策に関する計画の策定について定めるとともに、こころの健康環境の整備等に係る施策の基本となる事項を定めることにより、こころの健康環境の整備等に係る施策を総合的かつ計画的に推進し、もって国民のこころの健康の保持に資することを目的とする。

精神保健医療福祉の総合化の1つが「こころの健康基本法」の制定というわけですね。

すでに紹介したうつ病の認知療法・認知行動療法(患者さんのための資料)によれば、ストレスがたまってうつ的になっているとき、私たちは自分、周囲、将来の3つに悲観的な考えを持ちやすくなると指摘しています。

★自分にたいして悲観的
「きちんとできない自分はダメな人間だ」と考えて、自分自身を否定するような考え方をしてしまいます。

★周囲にたいして悲観的
「自分のように何の役にも立たない人間とつきあいたいと思う人はいない」と考え、まわりの人との関係がうまくいっていないと感じるようになります。

★将来にたいして悲観的
将来への希望を失い、「いまの状況はこのまま変わりようがないし、このつらい気持ちは一生続くだろう」と考えます。
このような時こそ、すこし立ち止まり、問題を見つめ.なおし、解決のドアを押したり引いたりしてみると、また違った考えがみえてきます。

こうしたつらくなったときに頭に浮かぶ自動思考を認知療法・認知行動療法では、柔軟なバランスのよい新しい考えにかえていくことで、そのときどきに感じるストレスを和らげる方法を学び、楽な気持ちでもっと自分らしく生きられる可能性を探ります。

少子高齢化、団塊世代の大量退職、成果主義の導入、国際競争の激化、人員削減による負担の増大、経済状況の悪化など、最近の人々にはさまざまなストレス要因が重なっています。

厚生労働省が5年に1回行っている労働者健康状況調査によれば、「仕事や職業生活に関する強い不安、悩み、ストレスを感じている」労働者の割合は50.6%(1982年)、55.0%(1987年)、57.3%(1992年)、62.8%(1997年)、61.5%(2002年)、58.0%(2007年)と推移し、今や働く人の約6割は強いストレスを感じながら仕事をしていると言えます。

もう10年もすれば、「がん」「急性心筋梗塞」「脳卒中」の3大成人病と並んで「精神疾患」が加わることになるでしょう。5人に1人が一生にかかる病気が精神疾患。認知行動療法の権威といわれる大野裕氏のこれからの仕事は私たち日本人にとっては大変大きな影響を与えそうです。

他人事と思わないで自分のこととして考えたいですね。

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